宝飾時計
2023/1/28
舞台を見た。
ボロボロ泣いてしまった。
すごくわかるのに普段言葉にうまく表せていないものが詰まっていた。
タイトル
宝飾時計
会場
東京芸術劇場プレイハウス
根本宗子さんの作る演劇が好きで、時々見に行っている。
今回の作品は、子役からずっと舞台に立ち続けている女性が主役。
特殊な環境にいる人たちの話だから、自分にはわからないことばかりかもしれないと思っていたけど、全然そんなことはなく、むしろ共感できることばかりだった。
人と人がコミュニケーションをとって、選択し、わかり合おうとしている。
当たり前のことだが、どんな人間もそれは同じで、わかり合えても、合えなくても、尊い。
様々な種類の椅子が並べてあり、真ん中は円形、回転するようになっている。背景には大きな時計の文字盤。
話が進みながら回転していくのだが、時の流れにも見えるし、演者の個性的な衣装も相まって、おとぎ話のお人形のオルゴールのようにも見える。
子役時代と今がなめらかに入り混じって進んでいくため、ほぼ全員が二役を担っている。10歳前後の子どもと30歳前後のおとな。衣装はほとんど変わらず、出ずっぱりに近い。
どの演者さんもすごく素敵だった。
明確に回想の子役パートと現在が区切れているわけではないのに、自然とスッと入ってきて理解できる。違和感がない。同じ人間が成長したのだから当たり前かもしれないけど、子どもとおとな、それぞれの言葉がちゃんと聞こえてくる。
作中の21年前から上演されている舞台「宝飾時計」は女性がトリプルキャスト。
1人だけ勇大という男性キャストがいた。勇大は当時人気子役。しかし、とあることがキッカケで海に飛び込み自殺。ゆりかはずっと勇大を忘れられずにいた。
高畑充希さん演じる、29歳まで身長が伸びずに子役からずっと同じ作品の舞台に立ち続けているゆりか。
小池栄子さん演じる、IT社長と結婚して女優からママタレントになった真理恵。
伊藤万理華さん演じる、厳しい元宝塚のママの期待に応えようとして引きこもりになってしまった杏香。
濃いキャラ設定に思えるけど、3人が全力で生きていて、悩んでいて、なんだか全然他人事ではなかった。
子役時代のコミカルで微笑ましくもある演技、大人になってからの等身大の説得力、高畑さんの揺らぎ、小池さんのリアルさ、伊藤さんの力強さがとても記憶に残っていて、3人のキャラクターも演者さんのことも大好きになってしまった。
成田凌さん演じる大小路。ゆりかのマネージャーとして突如現れ、今は交際もしているけれど、何かを聞かれると最終的に、ごめん、とばかり言っていて、何を考えているのかわからない。
そんな大小路だが、本当は宝飾時計に出演していた子役の1人、自殺したとされていた勇大だった。
成田さんが、ごめんと言えば言うほどイライラするし、相手のことを考えれば考えるほど言葉にできないから謝ることしかできないのも伝わってきて、もどかしくて、よかった。優しいのに優しくない。派手なシーンじゃないのに、ゆりかとのたわいもない会話がなによりも頭に残っている。
子役と今を二役演じている演者のなか、唯一勇大は別で、小日向星一さんが演じている。
大小路と勇大は同じ人間だが、別人でもある。
勇大は回想の中では本物だ。しかし、姿を消してしまったあと、ゆりかが会いたいと願う思いの強さで目の前に現れるようになる。いるけどいない、ゆりかの望むことしか話せない勇大が現れる。最初は宝飾時計を演じた後のわずかな時間しか見えなかったのに、最終的にはいつでもどこでも見えるようになってしまう。
小日向さんは本当に大人びた子どもにも見えたし、すぐにでも消えてしまいそうでもあって、不思議だった。
子役時代の勇大は複雑に物事を考えてしまうがゆえに、言いたいことを言葉にできないところがある。人に望まれている答えを言ってしまう。一番食べたいケーキがあるのに言えない。そんな自分のことが嫌いで、本当のことを話せるのはゆりかだけだったし、ゆりかもそうだった。
ゆりかは勇大を追い続けていて、大小路が勇大だということも見抜いたうえで付き合っているけど、大小路が本当のことを言ってくれないことに憤りを感じている。
勇大だとバレたあとだって、自殺に見せかけて消えた理由も、別人として再びゆりかの前に現れた理由も大小路は最後まで語ることはない。
ゆりかを支えたいと言いながら、何を言っても傷つけてしまいそうとも言う。一度も好きとは言わない。
ゆりかは勇大を大小路に重ねているけど、大小路は勇大を捨てたうえでゆりかを見ている。お互いにちゃんと見えていない。
どちらの気持ちもわかる気がしてつらくなった。
この作品ではめちゃくちゃ会話のシーンがある。たわいもない会話ばかりだけど、全てに意味があるように、そこからそれぞれのキャラクターや関係性が浮かび上がってくる。
ゆりかと真理恵
自分のために生きることがしんどくなって、他人のために生きたとして、じゃあ、自分のためには誰が生きてくれるのか。自分を大事にするってどうしたら良いんだろう。
ゆりかと杏香
ゆりかは親に興味を持ってもらえなかったから、杏香のママを羨ましいと言う。見てほしい人に見てもらえない。でも、ママが過剰に干渉し、受験に失敗して杏香は引きこもりになってしまった。しかし杏香もママなしでは生きられないことを自覚している。
ゆりかと勇大
自分のために生きられない似たもの同士。食べたいケーキはショートケーキなのに本当のことを人に言えない。
ゆりかと大小路
核心をつくような会話になると話題を変えて、毎日、明日食べるものを決めていて、小さい約束を重ねて明日を繋ぎ止めている。
一幕と二幕で同じシーンが何度か繰り返されるが、それぞれの事情がわかっている状態で見ると、たわいもないことに感じていた会話がそんなことなかったのだと気づく。
大人になってからの真理恵には関というマネージャーがいて、演じる後藤剛範さんが絶妙だった。
関は筋肉キャラで空気が読めないので、作中ではほぼ笑えるパートを担っている。
小池さんとの掛け合いも良くて2人がとてもかわいかった。
そんな関だが、大小路が勇大だとバレてからでも、大小路さんとして出会ったのだから、勇大ではなくて、僕にとっては大小路さんだ、と言って大小路に対する態度を変えることはなかった。
これは別人になりたかった勇大、大小路にとってはかなり救いの言葉だったのではないかと思う。関と話している大小路は、ゆりかの知らない笑顔だった。
過去の自分が嫌いで別人になりたいと願う気持ち、結局は自分と向き合って進んでいくしかないのに、すごくわかる気がした。
最終的に、ゆりかにいなくならないと言ったのに、大小路は再びいなくなってしまった。
また別人として生きるのだろうか。
ゆりかが1人になり、「青春の続き」を歌う。
高畑さんの歌唱力と表現力が端々まで行き渡っていてビリビリした。生で聴けて良かったと心から思う。
ラストシーン、衣装にフリルのガウンを羽織り、年を重ねて弱っているようなゆりかが倒れると、大小路が現れ寄り添って、大好きだよと伝える。
私の思っていたことが真実でよかった、とゆりかは言う。暗転。
大小路は時が経って、本当のことを言えるようになったのか。
それともこれは、ゆりかの思いが生み出した大小路だったのか。
全員の気持ちがわかるようで、わかったつもりかもしれなくて、すごく好きだった。
私は人々がわかり合おうとして何かをしていることが好きだ。
毎日別人になれたら良いなと思っていた時期があって、もう会うこともなくなってしまった人もたくさんいるけど、自分の中では無理矢理忘れることもないし、また会えたら今ならうまくやれるかもしれない気もする。
メイク直しができるようにしておいて良かった。